. 委員による提言

4.eラーニングによる研修におけるテレビ会議システムの活用
椎  廣行

 私の所属する国立教育政策研究所社会教育実践研究センターでは、社会教育指導者のためのeラーニングによる研修(学習)プログラムの開発を行っている。今年度は、「学習プログラムの企画立案」を内容としたCD−ROMを開発し、学習管理をインターネットを経由して行うというものである。今回、その一環として、インターネットによるテレビ会議システムを併用した場合の研修効果について探ってみたいと思い、一部地域の協力を得て試行を行った。対象が6人と少人数であることから、その結果を一般化していうことはできないが、参考にはなるものと考える。そして、この事例を通して、テレビ会議システムを活用した学習資源提供の在り方を考えてみたい。

1.テレビ会議システムの効果と問題点

  (1)テレビ会議の内容
   テレビ会議システムを活用する目的は、添削指導を行う指導者や学習仲間を視覚化し、仲間意識を形成し、学習へのモチベーションを高める、意見を交換することで学習の効果を高める、学習方法や学習を進める際の留意点等について理解を深める、ことであった。テレビ会議は、3回行い、eラーニング受講協力者6人と添削指導者、コーディネーターの8人で行った。第1回は、自己紹介、学習プログラムの説明、第2回は学習の経過報告、課題提出についての説明、第3回は、課題ワークシートの発表と質疑、講評、が主な内容であった。なお、時間は、第1回が30分、第2回が60分、第3回が90分である。
(2)テレビ会議参加者のアンケート調査結果
   テレビ会議参加者へのアンケート調査は、各回の会議後行ったが、6人の参加者のうち5人から回答をもらった。それによれば、学習へのモチベーションを高めるという点では、「学習意欲がとても高まった」、「学習意欲がまあまあ高まった」を合わせると、第1回は5名全員であったが、第2回は4名、第3回には2名と減少している。これは、第3回が課題を提出し、この学習を終えようとしている時であり、この時点では達成感の方が強いからと思われる。また、学習方法等の理解を深める点については、第1回「次の受講にとても役に立った」「まあまあ役に立った」を合わせると3名、第2回「課題レポート提出にとても役に立った」「まあまあ役に立った」合わせると5名であった。これは、この学習では、課題レポートの提出が最も大きな課題となっていることから関心が高かったものと思われる。そして、学習効果を高めることについては、第3回「講義の理解にとても役に立った」「まあまあ役に立った」を合わせると3名であった。これは、受講協力者が社会教育主事ということもあり、既にこの学習プログラムの内容に精通している者がいることを考えると、効果があったと考えることができよう。
(3)テレビ会議システム活用の効果
   上記Aからも言えるように、学習者が他の学習者とコミュニケーションをとることは、学習へのモチベーションを高めるとともに、学習効果を高めることにつながっている。そのことは、テレビ会議システムのもつインタラクティブ性が効果を持つことを示している。裏返すと、人と人のコミュニケーションがとりやすい集合型学習のもつ効果を示していることでもあるが。今後、地方自治体の研修関係予算の削減などにより、社会教育関係職員の集合研修の機会は減少し、また、その機会は短期のものになっていくことが予想される。そうしたことから、社会教育関係職員の養成や資質の向上を図るための研修を、インターネットなどITを活用して行うことが求められる。その際、コミュニケーション・ツールとして、テレビ会議システムは有効であろう。
(4)テレビ会議システムの課題
  テレビ会議システムを活用するには、それを可能とする環境を整備することが必要である。今回の試行においては、通信環境やパソコンの機能の違いにより、送受信がスムースにいかないなどの問題が生じた。また、送受信時間や利用できる場所が限定されるなどの問題点も生じた。さらに、「音声設定が分からなかった」など利用者のパソコンに関する知識にも問題があった。また、利用できる人数も限界があり、少人数に限定されるのも問題点といってよいだろう。
2.テレビ会議システムを活用した学習資源提供

 テレビ会議システムの活用は、eラーニングによる研修を実施する際にコミュニケーションを促進する上で効果があることは先に述べたが、学習資源の提供という視点から見た場合はどうであろうか。3回目のテレビ会議は、提出された課題レポートを各自発表し、意見を交換するとともに添削指導者やコーディネーターからも意見をもらうというものであった。集合型の研修の場合では、課題レポートを小グループで意見を出し合い作成し、またそれを各小グループで意見を交換するというように行っている。この小グループで意見を出し合いまとめるという作業の過程で、メンバーの持っている知識、経験等が相互に働き、新たなものを創造(工夫)することが利点となっており、学習効果が深まる一つの要因になっている。これは、参加者自体が学習資源として有効であるということを意味する。しかし、現在のテレビ会議システムでは、個々人の持つ知識、経験が、他者の知識、経験と相互に作用し、新たなものを創造(工夫)するというところまで議論することは、難しいと思われる。言葉を換えれば、参加者が有効な学習資源として機能しにくいということである。それは、時間や場所、利用機器の制約をはじめ、参加者のITに関する知識・技術の制約などがあるからである。また、テレビ会議で初めて顔を会わすときには、視覚的に相手をとらえることができる利点はあるものの、バーチャルな存在であることも確かであり、コミュニケーションの質が、集合型よりも低いものとならざるを得ない。もっとも、直接、人とコミュニケーションをとることが苦手な人には、効果があると思えるが。こうしたことから、研修において参加者を学習資源として有効に活用するためには、次のような工夫をすることが必要となると思われる。

  (1)通信環境や機器の整備
   光ファイバーやADSLを利用する人、電話回線を利用する人など、地域によって、人によって通信環境は異なっている。また、最新のパソコンを利用している人、既に古いモデルになっているパソコンを使用している人、利用する人によりパソコン等の機能も異なっている。これらの条件によっては、よいシステムが開発されてもそれを充分に利用できないことがあるから、利用のための条件整備がまず必要である。また、テレビ会議システムでは、資料の共有化もできる機能を持っているので、その機能を有効に使うための方法を理解させることが大事である。これらを通じて、参加者が、主体的に自らの持つ知識、経験を共有しようとする意識やそれができる環境を作ることが大事であろう。

(2)ブレンディング方式等の活用
   テレビ会議でのコミュニケーションのベースを作るため、仲間意識をもたせるとともに、研修の目的、機器の操作方法等を理解させ、また、テレビ会議を行う目的を理解させるための集合型研修を行うなどの工夫をすることも必要であろう。

(3)メールや掲示板等の活用
   テレビ会議システムは、参加者が同時刻にパソコンの前にいる必要がある。テレビ会議参加者の都合を調整するのは結構大変で、普通の会議を開催するのと同じ労力がかかる。また、現時点では、当日会議を実際に行うまでの調整に時間もかかる。制約された利用時間を効果的に利用するため、研修(会議)主催者は、事前にメールで会議資料を送付する、ネット上に掲示板を用意し、参加者が研修期間中は日常的にコミュニケーションをとれるようにする、といった工夫をすることが求められよう。

(4)参加者の拡大
   テレビ会議に参加できる人数は、システムの限界に依存している。現状では、集合型研修に比べ少人数しか参加できない。参加者を学習資源として考えれば、多くの人が参加し、その知識、経験を共有できるようにすることが望ましい。現状で考えれば、参加者を拡大するためには、テレビ会議室を多数設置し、小グループをいくつか作ることが考えられる。しかし、テレビ会議を同時にできないところがネックとなる。大きな会議室を作ることはハードの限界があろう。会議室間のやりとりができるようなシステムができるのかはわからないが、それができると利用可能者が拡大し、研修には利用しやすくなる。そうできなければ、少人数グループの成果を共有できる場をバーチャル展示室として設け、そこで意見交換ができるようにすることも考えられる。

3.まとめ

 これまで、eラーニングによる研修におけるテレビ会議システムの活用が、従来の研修の内容・方法と比較してどのような効果があるかを見てきた。テレビ会議システムの普及などITの進展により研修等の内容・方法が限定される方向に進んではいけないし、研修内容・方法が情報機器の進展・普及を限定してもいけない。今後、ますますITの活用は進むものと思われるが、活用する側が、こういうところにITが利用できないか、といった課題意識を常日頃持つことがのぞまれる。そして、従来の研修内容・方法に縛られずに、新たな方法、ITを活用するのに相応しい内容を考案するなど、発想を新たにすることが、ITを有効に利用することにつながり、効果的な学習につながると考える。