. 海外訪問調査

英国調査報告
渋谷 英章

4.Department for Culture, Media and Sports(DCMS―文化・メディア・スポーツ省)

〔訪問日〕 2004年3月3日
〔面談者〕 Mr. Les Pedrick, Public Libraries Branch、DCMS
Mr. Andrew Stevens, Senior Policy Advisor (Libraries),
Museum, Libraries and Archives Council(MLA)(写真5)


 公共図書館の将来像については、Framework for the Future : Libraries, learning and Information in the Next Decadeが2003年2月に発表されている。このフレームワークでは、図書館の新たな使命として、読書、インフォーマルな学習、自立という伝統的な図書館のコア・スキルズの進化、成人の識字や就学前の学習の支援を含む、公共政策が社会に大きな利益をもたらすという領域に焦点を当てた公共的価値、図書館を開かれた、ニュートラルで、自立したものとするという独自性。これらは他の公共セクター機関、あるいは民間には真似のできないものであるが、これらの機関とのパートナーシップによって補強される、公共図書館サービス全体としてのプロフィールを向上させるだけでなく、地域のニーズに対応して柔軟なものとするという全国プログラムの地域に根ざした解釈、の4点が挙げられている。そして、読書とインフォーマルな学習、e―governmentを含むディジタル・スキルズやサービスへのアクセス。社会的排除に挑み、コミュニティのアイデンティティを確立し、市民性を発展させる方策、という3つの活動領域が新たな図書館の使命の中心になると考えられている。このように、図書を所蔵することによって人々の読書活動やインフォーマルな学習を支えるという従来の機能に加えて、これからの公共図書館は人々がICTにアクセスする拠点のひとつであるとともに、コミュニティの発展や市民性の育成にも貢献する施設であることが期待されている。

写真5 
Les Pedrick氏(左から2人目)とAndrew Stevens氏(左から3人目)
 このような新しい図書館像を示すフレームワークが作成された背景には、生涯学習の進展の中で図書館に期待される機能が変化してきていることも考えられるが、それ以上に、英国における公立図書館の財政システムが大きく影響を与えているとのことであった。公立図書館は149の地方図書館局によって設置されているが、DCMSにはこれらの地方公共図書館に財政的支援を行う予算がなく、公共図書館の運営は地方当局の財政方針に左右されるといわなければならない。このためにも、公共図書館が地方当局へ貢献する姿勢を具体的に示す必要があったのである。

 さらに、政府の他の機関の推進するプロジェクトと連携することによって財源を調達することも重要であり、そのなかでICTに関連するものがThe People’s Networkである。The People’s Networkは,宝くじの収益金によるNew Opportunity Fundが資金を提供し、MLA(Museums, Libraries and Archives council)によって運営されている。このプロジェクトにより、小さい図書館では2台から6台、都市部の図書館では10台から50台以上の、インターネットのコンピュータ端末が設置され、さらに図書館職員にコンピュータ・リテラシーと学習者支援のスキルズを身につけさせる。これにより、図書館はUK Onlineの学習センターとしての役割も果たすようになる。なお、UK Onlineの学習センターは全部で約6,000であるが、そのうちの半分の3,000が図書館に開設されていることになる。The People’s Networkの推進により、自宅にコンピュータを所有していない人々が図書館のコンピュータを使用するために来館するようになり、図書館の利用者数が20%増加したとされる。ただしその一方で、図書館は静かに読書に勤しむ場所であると考える住民からは不満が出ている。さらに、地方当局としては政府のサービスにアクセスする拠点が図書館に確保されたことになり、エスニシティの多様性などのコミュニティの課題に図書館が貢献できる可能性もある。