. 社会教育における情報機器活用調査

2.情報機器活用実践事例(4)

宮崎大学生涯学習教育研究センター「地域活性化塾」(宮崎県宮崎市)

 地域活性化塾は、宮崎県教育委員会が平成13年度から進めている「若人ひむか活性化塾」事業の中で、県内の各地域で地域づくりや地域の活性化に取り組んでいる青年グループである。宮崎県の基幹産業である農林業は後継者不足の課題を抱え、担い手である青年の農林業離れに歯止めがかからない現状である。活力ある地域づくりのためには、多様な価値観をもつ青年のパワーを結集し、組織や市町村の枠を越えた新たな視点にたった活動の展開が必要であるとの考えから、「若人ひむか活性化塾」事業が進められている。この事業の中心的な役割を果たし、具体的な活動を行っているのが地域活性化塾であり、2市町村以上の青年男女で構成されている。

  地域活性化塾が関わる活動には次の3つがある。第1は、少年育成活動、農林水産業・産業振興活動、ボランティア活動、世代間交流活動、国際交流活動など各地域で行われる地域交流活動、第2は広域体験交流活動といわれるもので、地域活性化塾が行う農業体験活動、林業体験活動、水産業体験活動などに他の地域活性化塾のメンバーや青年が参加し交流を深める活動、第3は県内の地域活性化塾や青年たちが一同に会し、活動の報告や情報交換を行い団体・組織間の交流を深める塾生交流キャンプである。「若人ひむか活性化塾」事業は、このような重層的な活動によって取り組みが行われている。宮崎大学生涯学習教育研究センターは、宮崎県教育委員会と協力しながら、この事業について指導、助言を行っている。

  今回の実践調査研究では、県内の16の地域活性化塾のうち、宮崎市と国富町の青年で構成される「どんげネット」、国富町、宮崎市および高崎町の青年による「DISCOVERY」の2つの地域活性化塾の協力をいただいた。「どんげネット」には40名程度のメンバーがおり、綱引き大会などの地域イベントの実施、県外青年との交流、国際交流活動などを幅広く行っている。「DISCOVERY」は50名ほどのグループで、音楽のライブコンサートを中心に地域づくり活動を行っている。いずれも、県内の地域活性塾の中でも活発な活動を展開しているグループである。

(1)情報機器活用の計画と貸出機器
 

平成15年12月中旬  デジタルコンテンツの内容および作成スケジュールに関わる打ち合わせ、コンテンツ作成開始(多機能デジタルカメラを活用して素材の収集等)

平成16年1月上旬  コンテンツ作成状況についての打ち合わせ

       2月6日  コンテンツの一部完成

       2月7・8日 地域活性化塾生交流キャンプにおいて、作成したコンテンツを活用して「どんげネット」
             「DISCOVERY」の活動報告を行う
       2月16日  コンテンツのWeb上での公開とPR

       2月17日  網走とインターネットテレビ会議システムを活用し意見交換する

       2月27日  「ボランティア活動を通じた地域づくりの工夫」をテーマに網走、足立、富山を結んでの
              インターネットテレビ会議システムによる協議

マルチメディア教材作成ツール(タブレット付)

多機能デジタルカメラ 

インターネットテレビ会議システム

 
(2)活用内容
 

1)デジタルコンテンツの作成とその方法について検討
  今回は、まず、「どんげネット」と「DISCOVERY」の2つの地域活性化塾にそれぞれの活動の目的、意義、内容、成果と課題についてまとめたデジタルコンテンツをマルチメディア教材作成ツールを用いて作成した。その際に、地域の実情および課題の把握、課題解決の観点などを取り入れて、地域づくりに対する地域活性化塾の活動の意義、成果などを盛り込んで整理した。また、コンテンツ内の画像作成には多機能デジタルカメラを用いた。これらを活用したコンテンツの作成を通じて、効果的な作成方法などについて検討を行った。なお、作成したコンテンツ全体のタイトルと構成は次頁のとおりである(写真1・2、表1)。

2)コンテンツの活用方法についての検討
  作成したコンテンツの有効な活用の在り方について検討するため、作成したコンテンツを
Web上(http://www2.opencol.gr.jp/)で視聴できるようにし、県内の他の地域活性化塾のメンバーや一般の方々にも視聴してもらった。また、2月7・8日に実施された県内の地域活性化塾全体の交流事業(塾生交流キャンプ)の中で、作成したコンテンツを活用した活動報告を行った。このようなコンテンツの活用を通じて、コンテンツの内容について評価を行うとともに、有効な活用方法について検討した。


写真1 タブレットを使ってコンテンツを作成
表1 タイトルと構成

「青年による地域活性化への取り組みと課題〜宮崎県における「若人ひむか活性化塾」の活動を通じて〜」

1.宮崎県における「若人ひむか活性化塾」について

2.地域活性化塾の活動と課題

 (1)地域活性化塾「どんげネット」の活動
 (2)地域活性化塾「DISCOVERY」の活動と課題

  ・地域活性化塾「DISCOVERY」と「スマイル」
  ・野外ライブ「ホッケ・ストック」
  ・「DISCOVERY」の課題
  ・地域づくりの経験から考えること

写真2 できあがったコンテンツ

3)地域課題の解決に向けた遠隔による協同学習
  地域づくりに向けて取り組んでいる全国の実践学習グループとインターネットテレビ会議システムを活用して討議を行い、他地域の実践を参考にしながら、地域づくりのための地域活性化塾の今後の在り方について検討した

 
(3)機器活用の評価
 

1)マルチメディア教材作成ツール
  Web上で視聴できる講義形式の動画ファイル(デジタルコンテンツ)を作成できるアプリケーションとして、また、そのコンテンツをWeb上で視聴できる点は、今後、社会教育のみならず、さまざま場面での活用の可能性があり画期的なツールであると思われる。しかしながら、一方では、まだ開発段階の面もある。コンテンツの作成、視聴を通じて改良を求めたい点として次のようなことがあげられた。

<作成者の側から>

  • 画像を貼り付け後にサイズ変更を行うと、画質が低下してしまう。そのため、画質を維持するためには、画像を張り付ける際に前もって画像サイズを調整しておく必要があるが、それを正確に調整するのは難しい。
  • ページの消去や追加がうまくいかない。
  • 音声の録音とタブレット使用によるペン操作を一人で同時に行うのは難しいので、録音とペン操作を重ねる仕組みがあるとよい。
  • 単純なコピー・ペーストなど、通常のアプリケーションでは簡単に行える操作であるが、本システム中にないものがある。
  • タブレットについては使いやすいが、サイズが大きいのと配線が大変であった。

<視聴者の側から>

  • 最初のコンテンツはダウンロードに時間がかかりすぎだと思う。
  • 一部に、音声がこもっている、ノイズで聞き取りにくい、音量が弱くなる等がみられた。ボリュームコントロールがあるとよい。
  • 各テキストの上に付いているタグのなかに、番号だけでなく、見出しをつけるだけでも、聞き手・読み手も心構え(全体の理解)ができ、改善できると思う。
  • パソコン上の画面が小さい感じがした。

2)多機能デジタルカメラ
  この機器については、その軽量さとコンパクトさがとても評価された。具体的には次のような感想があげられた。

  • とても持ち運びに便利であり、ポケットに入れていてもまったく違和感がないのでどこにでも、どんな格好でも携帯できる。
  • 使い方も簡単なので、誰でも扱うことができると思う。
  • ズーム機能がもう少し良ければいい。
 
(4)他の実践先とのコミュニケーションについて
 

 今回、宮崎からインターネットテレビ会議に参加したのは2回であった。初回(平成16年2月17日)は宮崎と網走の2地点を結んでの協議であった。網走からの参加者はインターネットテレビ会議での協議は2回目であったが、宮崎の参加者は初めてであったということもあり、それぞれの活動状況を相互に報告し、若干の質問を行う程度であった。しかし、2回目の実施(同年2月27日)のときには、すでに相互の活動をある程度理解していたこと、また、「ボランティア活動を地域づくりに生かす工夫」という討議のテーマを設定したこともあり、討議に少しばかり深まりが感じられた。宮崎と網走でのそれぞれのグループの活動は全く異なるものであるが、地域や地域づくりに対する熱意には共通するものがあることを理解することができたようである。

  参加者からは、「まだまだ交流がうまくいったという感じは受けなかったが、実際網走の人と画面を見ながら話をして新しい交流の可能性を感じた。もっと簡単な機器で簡単に活用することができるようになれば、一般レベルにおいてもこのシステムを活用した交流は広がっていくと思う。」という感想が聞かれた。また、簡単に会うことができない距離にあるからこそ、インターネットテレビ会議システムを活用する意味があるが、このような実践を行うことで、実際に会ってみたくなったという声も聞かれた。

 
(5) 参加者の意識調査等について
 

 Webでコンテンツを視聴した方の中の数名から、コンテンツの評価と感想を聞くことができた。コンテンツの評価は、内容について、ナレーションについて、下線や○などの手書きによる指示・強調について、長さ(時間)について、の4点を聞いた。

  個々のコンテンツによって違いはあるが、コンテンツの内容については、わかりやすかったという評価が多かった。ナレーションは、録音の音量が小さかったコンテンツがあり、それについての指摘がみられた。下線や○による指示・強調については感想が分かれており、効果的であったとの回答がある反面、強調の仕方がワンパターンであること、指示、強調機能を多用しすぎの部分があることなどの指摘がみられた。これらは、どのような指示、強調の方法が内容の理解に効果的であるかについて検討する必要性があることを示しているといえる。

  また、長さ(時間)についても同様で、「適当であった」という回答もあるが、「長かった」という回答もみられた。コンテンツの1画面の長さは1分以内であっても、画面数が多くなると全体としてコンテンツそのものは長くなる。どの程度の時間が適切かについても今後検討を要する事項である。さらには、その時間の中で、どのように内容を組み立てるのが有効であるかなど多くの課題が残された。

(宮崎大学生涯学習教育研究センター助教授 原 義彦)

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