. 社会教育における情報機器活用調査

2.情報機器活用実践事例(3)

富山インターネット市民塾推進協議会「ふるさと塾」(富山県富山市)

 インターネット市民塾講座「石仏とふれあう里となみ野」講座は、インターネット市民塾「ふるさと塾」として、平成14年度から開催しており、今年度は2年目の開催となる。砺波市に在住し、自営業の傍ら、地域の各所に点在する石仏に関心を持ち、長年にわたって調査・記録されている尾田武雄氏(自営業)を、市民講師として講座を開催している。受講者(参加者)は、富山県内各地から30名ほどで、スクーリングでは一般参加も受け入れている。
  受講者(参加者)は20代から60代まで幅広く、石仏そのものへの関心だけではなく、お堂や、手向けられている野の花への関心、付近の風情を写真に撮り続ける人など、さまざまである。ネットによる知識学習と講師からのレクチャーを受けながら、期間中1〜2回のスクーリングを実施し、実地に石仏を訪ねながら、講師から説明を受けている。

(1)情報機器活用の計画と貸出機器
 

平成16年1月中旬から下旬にかけて、約2週間
   (機器活用準備期間は、平成15年12月下旬から平成16年2月下旬までの約2ヶ月間)

    携帯情報端末

    インターネットテレビ会議システム

 
(2)活用内容
 

写真1 スクーリングの様子

 スクーリングで巡る各所(富山県砺波市庄川町青島、金屋一帯)の石仏に無線ICタグをあらかじめ設置し、携帯受信機と情報端末を利用して、コンテンツの受信に関する実験を行った(http: //toyama.shiminjuku.com/general/contents/00000338/report.html)。当日(平成16年1月24日)は、天候(大雪)と機器の制約により、2段階に分けてコンテンツを表示した。ICタグは3箇所に設置した(写真1〜7)。

  付近にあるインターネットへの無線によるアクセスポイントから、感動や発見を、携帯情報端末を利用して発信し、ほかの学習者と共有する実験を行った。携帯情報端末は、だれでもすぐに操作できるには、少し課題があるとともに、持ち運びが気になるが、今後数年の内に、次世代携帯電話の開発が進展し、これらの問題が解消されることは、大いに期待される。


写真2 実験に使用したICタグ
(アクティブ型)

写真3 実験に使用した受信機

写真4 石仏の近くにICタグを設置 

写真5 コンテンツ(動画)を表示

写真6 ネットにアクセスし、関連情報を検索

写真7 ネットを通じて、感動を発信
 
(3)機器活用の評価
 

1)「知」の共有
  石仏の近くに設置したICタグから発信するIDをもとに、「知」の共有を試みた。スクーリングでは、講師の解説を聞きながら、石仏そのものへの関心、お堂の建築についての関心、お堂に掘ってある彫刻への関心、周囲の人の往来との関係への関心など、さまざまな学びの視点があることが分かった。訪れる人によって、また、別々に訪れることで、学ぶコンテンツや発信するコンテンツがさまざまに分かれる。これらのコンテンツを結びつけることに、ICタグ活用のねらいがあった。その意味で、野外で自由に情報ネットワークに接続できる携帯情報端末は、その場でコンテンツをキャッチしたり、感動や発見を発信することに効果的である。今回は断片的な実験であり、コンテンツの受発信もそれほど多くなかったが、ネットによる講座開催は、現地の訪問を促すことから、ICタグの継続的な設置を実現することで、コンテンツの蓄積と共有が期待できる。

2)住民による地域づくり
  公開実験としたことで、地元庄川町の人も数人参加があった。見慣れない機器や、聞きなれない言葉に戸惑いも見られたが、地域の自然、史跡、生活の中にある有形・無形の「宝」を再認識し、地域の人たちの手で電子的なしるし(タグ)をつけるという考え方に、ようやく理解が得られた。電子的なタグとすることで、地域内外の人によるコンテンツをIDにより関連付けて、デジタル・アーカイブするとともに、ネットを通じて、また、訪れる人たちに教えることができるように、地域のみんなが「学芸員」(市民講師)となって、地域づくりに参加する考え方である(図1)。
  インターネット市民塾の仕組みを利用し、地域に住む市民講師がどんどん生れており、新しい情報活用環境の整備によって、次のような効果が期待できる。

  • 地域住民による「知」の顕在化と発信、地域づくりへの参加

  • 地域に点在する「知的資源」を、「公共財」として把握・共有することで、学校から生涯学習まで幅広い対象者に、ユビキタス・ラーニングを提供


図1 住民による地域づくり

 これらの効果を具体的に実証するためにも、さらに継続的な研究の取り組みの機会が望まれる。

3)地域の情報通信インフラとコンテンツ
  e―Japan重点計画等の取り組みによって、情報通信インフラの整備が飛躍的に進んでいる一方で、その中を通るコンテンツが少ないという状況が、各所に見られる。

  今回の実験では、地元のケーブルテレビ局の協力で、スクーリングの現地近くに無線LANの接続端子を臨時に増設していただいた。この端子を介して今回のようにコンテンツを自由に受発信するほか、インターネット中継など新たな可能性を検討する機会にもなっている。特に地域にあっては、情報インフラ整備とコンテンツは、「車の両輪」の関係といえる。

 
(4)参加者の意識調査等について
 

今回の参加者から、次のような意見・感想等があった。

  • 携帯情報端末に表示されるコンテンツは、少し画面が小さく見やすいとはいえないが、講師のいない時のことを考えると大変良い方法である。
  • 石仏の解説を聞きながら、感想を発信してみた。写真を写し、メールの添付ファイルとして文章を添えて送るのは、慣れないとスムーズにいかない。
  • ほかの人の感想などを見ることができ、いろいろな見方があることがわかり、別々に来た人の間で共有できることは、その場での学習にも役立つ。
  • 受信機などがかさばるので、もっと小さくできればよいのだが(携帯電話等)。
  • もし、今日のスクーリングに来れなかったとしても、参加者の発信した情報を参考にできるかもしれない。
  • 遠方からここに来て学ぶ人が増え、その人たちに詳しく説明し学んでいただくことは、地域にとってよいことだと思う。
  • 当日私がいなくても、ここに来て学べることはすばらしい。私だけでなく、ここに住んでいる人の中には、いろいろなことを知っている人がほかにもいるので、解説を提供してもらえばよいのでは。このような学習方法を考えて、解説をもう少し考えても良かった(講師)。

(富山インターネット市民塾推進協議会事務局長 柵 富雄)

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