1)「知」の共有
石仏の近くに設置したICタグから発信するIDをもとに、「知」の共有を試みた。スクーリングでは、講師の解説を聞きながら、石仏そのものへの関心、お堂の建築についての関心、お堂に掘ってある彫刻への関心、周囲の人の往来との関係への関心など、さまざまな学びの視点があることが分かった。訪れる人によって、また、別々に訪れることで、学ぶコンテンツや発信するコンテンツがさまざまに分かれる。これらのコンテンツを結びつけることに、ICタグ活用のねらいがあった。その意味で、野外で自由に情報ネットワークに接続できる携帯情報端末は、その場でコンテンツをキャッチしたり、感動や発見を発信することに効果的である。今回は断片的な実験であり、コンテンツの受発信もそれほど多くなかったが、ネットによる講座開催は、現地の訪問を促すことから、ICタグの継続的な設置を実現することで、コンテンツの蓄積と共有が期待できる。
2)住民による地域づくり
公開実験としたことで、地元庄川町の人も数人参加があった。見慣れない機器や、聞きなれない言葉に戸惑いも見られたが、地域の自然、史跡、生活の中にある有形・無形の「宝」を再認識し、地域の人たちの手で電子的なしるし(タグ)をつけるという考え方に、ようやく理解が得られた。電子的なタグとすることで、地域内外の人によるコンテンツをIDにより関連付けて、デジタル・アーカイブするとともに、ネットを通じて、また、訪れる人たちに教えることができるように、地域のみんなが「学芸員」(市民講師)となって、地域づくりに参加する考え方である(図1)。
インターネット市民塾の仕組みを利用し、地域に住む市民講師がどんどん生れており、新しい情報活用環境の整備によって、次のような効果が期待できる。
- 地域住民による「知」の顕在化と発信、地域づくりへの参加
- 地域に点在する「知的資源」を、「公共財」として把握・共有することで、学校から生涯学習まで幅広い対象者に、ユビキタス・ラーニングを提供
図1 住民による地域づくり
これらの効果を具体的に実証するためにも、さらに継続的な研究の取り組みの機会が望まれる。
3)地域の情報通信インフラとコンテンツ
e―Japan重点計画等の取り組みによって、情報通信インフラの整備が飛躍的に進んでいる一方で、その中を通るコンテンツが少ないという状況が、各所に見られる。
今回の実験では、地元のケーブルテレビ局の協力で、スクーリングの現地近くに無線LANの接続端子を臨時に増設していただいた。この端子を介して今回のようにコンテンツを自由に受発信するほか、インターネット中継など新たな可能性を検討する機会にもなっている。特に地域にあっては、情報インフラ整備とコンテンツは、「車の両輪」の関係といえる。
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