. 社会教育における情報機器活用調査

2.情報機器活用実践事例(2)
足立区生涯学習センター「ITサロン」(東京都足立区)

  ITサロンは、@IT技術習得を目的にするのではなく、区民のネットワークづくりのきっかけとすること、A生涯学習センターで既に活動しているコンピュータボランティアのようにパソコン操作に習熟した区民がボランティアとして関わり、習熟した区民と初心者の区民との交流の中で相互に学びあうという、教室とは違った交流の場とすること、BITに関して、より身近な場所で、年間を通して定期的に学ぶことができる場所をつくること、などをねらいとして、ポストIT講習会事業として足立区生涯学習振興公社が実施している。平成13年度は生涯学習センターで試行として11月から実施し、9月にボランティアを募集してスタートを切った。パソコン操作を覚えたい区民に、教えるスキルを持った区民がサポートする区民相互の学びあいという観点からボランティアによる運営で事業を開始した。平成14年度には6つの地域学習センターでも新たに開催し、平成15年度には13会場に拡大している。

  ITサロンはいわばパソコンを媒介とした井戸端会議である。各会場、月に2回から4回程度、主に午後の2時間程度の時間でサロンを開催し、そこにはインターネットに接続したパソコンが3台から8台置いてあり、参加者は運営ボランティアに操作を教わったり、質問したり、パソコンについて話をしたりという光景が見られる。今後は、サロンの場を利用して、地域のホームページ作りなど、地域情報の拠点となることを目指しているが、現状ではまだパソコン操作習得がメインとなっている。参加者数、参加ボランティア数は会場や日程によりさまざまである。

  生涯学習センター内にある学習事業課の役割は、ITサロン全体の調整、ボランティアの募集受付、コーディネートである。登録ボランティアは現在140名程度となっており、全体で毎月20回以上行われているITサロンの運営に当たっている。ボランティアは男性が8割近く、会社勤めを終えた年齢層の方が中心となっている。このことも従来の生涯学習のボランティア活動にはあまり見られなかったことであり、会社人間で退職後も地域のつながりを作りづらいという方々が積極的に地域の活動に関わろうとする姿が見られる。今後は開催日数の拡大といった量的拡大と、内容面での充実を図ろうとしている。内容面ということでは、パソコンを習いたい、教えますという交流だけではなく、パソコンを道具として地域住民の交流を進めたり、地域のさまざまな人々が持つ経験や知識、技能を伝え合うなど、地域でどのようなことができるかを模索していくところからスタートしようと考えている。

  まだ、ボランティアの発案による暑中見舞い・年賀状作りの仕掛け程度しか実績はないが、情報発信の道具としてのパソコン及びインターネットを活用した取り組みを進めるべく、検討会をスタートさせた。ボランティアの力をITサロン以外でも発揮できる環境づくりも重要であり、これまでに、視覚障害者のパソコン勉強会へのサポート、青少年の土曜休日対応事業でのパソコン指導などの実績があるが、今年度は新たに、地域学習センターで活動する各種サークルの活動に生かすパソコン勉強会の指導をスタートさせた。今後、さらに地域学習センターでの新しい活動の場も創り出していく予定である。

(1)情報機器活用の計画と貸出機器
 

平成16年1月初旬〜2月中旬  ITサロン会場の様子を撮影しWebで公開

      2月27日       インターネットテレビ会議システムによる交流

    多機能デジタルカメラ

    インターネットテレビ会議システム

 
(2)活用内容
 

 足立区で活動するITサロンボランティアが、他地域のITボランティアとIT技術を利用して交流することにより、活動の目標を再確認するなど意識の向上を図るとともに、IT活用のノウハウを蓄積して、今後の活動のより一層の充実を図ること、ビデオチャットを利用した新しい交流の可能性を検証することをねらいとした。以下の項目で、詳細を述べることとする。

 
(3)機器活用の評価
 

1)多機能デジタルカメラ
  今回借用したデジタルカメラは、有効画素約200万画素のカメラで、使用時の本体質量が約74gと大変スリムでコンパクトになっていることが特徴である(写真1)。このカメラを使って、区内13のセンターで行われているITサロンの状況を記録した。ITサロンは会場も日程もさまざまであるため、カメラが会場間を人づてに行き来して各の様子を記録するという方法で行った。記録された画像は、学習事業課でパソコンに取り込んだ後(写真2)、ホームページに活動紹介としてアップロードした(http://gakushu.adachi.Tokyo.jp/ itsalon/annai.html)。13のセンターの間を行き来して記録する上では、この機器の軽量、スリム、コンパクトという特徴が役立ったといえる。職員やボランティアを介して学習事業課から各会場にカメラを移動して記録する際には、移動が楽であった。


写真2 画像をパソコンに取り込む

 また、撮影する際には、従来のカメラとはスタイルも違い、小型であるため、写される側が構えることなく記録できたということもメリットであった。撮影中には、「それは何ですか?」という質問をたびたび受けており、多機能デジタルカメラという認識がされない場合も多かった。また、「携帯電話ですね」という反応も多かった。最近、カメラの画素数が上がってきており、200万画素という数字は高くはない。しかし、今回のようにWebに活用するという前提の場合には十分な画素数であった。記録媒体としてメモリカードを利用している(SDカード)ため、データのパソコンへの取り込みが手軽に速やかにできた。ただし、後述するが、このメモリカードの容量が一方で制約条件にもなった。

 もう一つ、動画が撮影できるということもメリットである。ホームページにおける動画のファイルフォーマットのルールができていないため、今回は動画の掲載は行わなかったが、有効に活用できる機能であるといえる。記録媒体としてメモリカードを利用しているということはメリットであると共に、カードの容量によって活用が左右されるという側面も持っている。今回借用した機器に関しては、16MBのメモリカードが添付していたが、この16MBという容量では、静止画を最高画質で撮影すると20枚に満たない枚数しか撮影できない。Web用ということで低画質で撮影したため多く撮影できたが、やはりメモリ容量によって運用を考える必要がある。静止画だけでなく動画も撮影できるのだが、16

MBという容量では1分程度しか撮影できない。従って、動画の撮影は諦めざるを得なかった。今回は途中で別途128MBのメモリカードを購入することができたため、動画の記録も取れたが、容量の確保ということが重要である。小型軽量で取り回しが容易であるというメリットは、撮影する側が注意していないとブレた画像になってしまうというデメリットと裏腹である。今回も手軽に撮影できるため、ついついしっかりと構えずに撮影してしまうケースが多発し、ブレて使えない画像も多かった。利用する側の注意が必要な点である。

 

2)インターネットテレビ会議システム(写真3)


写真2 画像をパソコンに取り込む
 今回は、足立区ITサロンボランティアが他地域のボランティアと交流を行う手段としてこのシステムを活用した。具体的には、岡山市立御南西公民館で活動する市民情報ボランティアである「じょぼら会」と交流を行った。システムを利用するにあたってのパソコンの設定は、本システム貸し出しの担当者によって行われた。このシステムは今回だけの利用であり、設定していただいたことはありがたかったが、我々から見るとシステムの構成等がブラックボックスになってしまうということが残念でもあった。今後の取り組みのためにも、ボランティアによる設定作業という部分があれば、ノウハウとして蓄積でき、よりよかった。

  また、設定作業の際にITサロンで所有しているUSBのキャプチャーカメラが、このインターネットテレビ会議システムでは動作しないことが判明したため、別途用意することになった。どれでも使えるという方が使う側からすると助かるが、すべてを検証して対応するということは難しいのだろう。

  また、マイクの設定にも気を使った。パソコンのマイク入力は機種によってバラつきがあり、マイクとの組み合わせによっても問題が出る場合も多いため、数パターンの組み合わせを用意した。最終的には、事前に実際にインターネットテレビ会議システムを使ったテストの結果で組み合わせを決定した。インターネットテレビ会議システムのメリットは、何といっても安価に複数地点での会議が実現するということであろう。常時接続の環境さえ整っていれば、システムの利用料だけで遠隔地との会議が実現できる。これまで金額的に手が出なかったものが、少し近づいてきたという感じである。とはいえ、システムの利用料をどう予算化し、どこをつなぐのかという部分はクリアしなければならないことである。

  インターネットテレビ会議システムを利用して感じた課題点を整理してみると以下のとおりである。

 よりいっそうのブロードバンド化が必要
  実際に使用してみると、画像の大きさが足りないこと、動きが滑らかでないこと、提示資料の動きや表示までの時間がもたつくことなど、回線速度の限界による使いづらさが気になった。画面については、現在のテレビ受像機の画面が誰しもインプットされており、今回の参加者からは「こんなに小さいの?」「動きがわるい」といった声が聞かれた。現在の技術動向から見れば妥当だと判断できるものであっても、利用する側が期待するものはもっと大画面で自然な動きである。今後のより一層のブロードバンド化への基盤整備が進むことが待たれるとともに、動画の圧縮技術の進展も不可欠であろう。

 音声の質の確保
  画像と変わらず重要なのが音声であるということを実感した。むしろ、画面の大きさが限られるからこそ音声が重要だということがいえるであろう。画面についてはテレビがスタンダードとなっているのと同様に、音声もテレビや固定電話がスタンダードになっているといえるだろう。雑音や音の質には利用者は敏感である。この音声については、前項の設定の部分でもふれたが、回線やシステムだけの問題ではなく、各パソコンとマイクの関係も重要である。たとえシステム的に万全の状況を用意しても、利用者のパソコンでマイクとパソコンのマイク入力がミスマッチであれば聞くに堪えない音声となってしまう。このあたりのノウハウの蓄積も重要であろう。

 利用までのハードルがまだ高い
  今回、岡山との交流だけでなく、調査研究委員会の会議にもインターネットテレビ会議システムを利用して参加したわけだが、参加するに当たっての事前の機器調整など実際の会議以上の時間を準備で使っている。慣れてくれば大丈夫なのかもしれないが、まだ手間がかかるといった状況である。これをどう改善するかも普及のためには必要な事項であろう。

 直接会う会議とは違うノウハウの蓄積が必要
  インターネットテレビ会議を進めるには、実際に顔を合わせて行う会議とは違うノウハウが必要だと感じた。どのようにノウハウを蓄積し、どのように提供するのかを考えていかないと広まらないのではないだろうか。

 
(4)他の実践先とのコミュニケーションについて
 

 ITサロンボランティア5名が参加し、じょぼら会からも4名が参加した。また、岡山では、じょぼら会のメンバーがビデオ撮影を行ったが、足立区側では生涯学習センターのビデオボランティアが撮影を行った。双方の事業担当者も参加した。会議の事前準備として、双方で互いのホームページを事前に見ておくこととした。双方の事業担当者から概要説明を行った後、参加したボランティア4人ずつから、活動の様子や感想の報告があった。その後、質問を出し合い、30分の交流が終了した。ボランティアからの今回の交流に関する主な評価は以下の通りである。

ホームページで事前に確認していた内容で十分理解できた。

不明だった点を質問できたのでよくわかった。

画面が小さくてわかりづらく、声も聞き取りにくい部分があった。

一つのカメラで複数人が利用するというのは使いづらい。

目的を持って交流しないと効果がない。

  時間が短かったこともあって、交流したという実感をもてないまま終わってしまった感じである。インターネットテレビ会議システムは距離の壁を破ることはできるが、機械の制約の中での交流になるため、進め方のノウハウも必要であろうし、阿吽の呼吸ではなく言葉で進めなければ伝わらない。業務連絡ならばコミュニケーションの内容も明確だが、遠隔地の交流という場合にも、何よりも目的を明確に絞って交流することが重要であろう。
  機器の面での評価は、前に述べたように、前提としてテレビ放送や電話のイメージがあるため、総じて厳しい評価であった。これに関しては他会場の音声で不明瞭な場所があったことも影響している。

 
(5)今後の取り組み
 

 今回の取り組みは、岡山のボランティアとの交流にとどまらずITサロンの新しい取り組みへのよいきっかけとなった。インターネットテレビ会議システムなどの有料サービスを利用することはすぐにはできないが、無料のビデオ対応ソフトなどを利用して、ITサロンの会場同士で交流することが可能であり、検討と実験を始めている。

  このインターネットを使ったビデオ会議は、自宅などからもサロンに参加することが可能になるものであり、ITサロンが目指している地域の新しい交流の形をITを活用して生み出すということを実現する一つの鍵となるであろう。今後のさまざまな展開において、活動基盤の一つとして整備することが必要だと考えている。

(足立区生涯学習振興公社生涯学習部学習事業課長 村上 長彦)

機器提供:インターネットテレビ会議システム
NTT東日本株式会社 
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