.今後の課題と展望

今後の課題と展望
山本 恒夫

 本年度の調査研究を終えるにあたり、ヒアリングや委員の協議で浮かび上がってきた今後の課題や展望をまとめておきたい。
 
 まず第1に、eラーニングと学習目的の関係についての問題をあげておきたい。
 eラーニングでは目的がはっきりしていないと成功しないといわれるが、それを超えることはできないのだろうか。生涯学習では、個々の学習者の目的がさまざまであったり、学習そのものを楽しんだり、人間関係を作ってその中で学習を進めるということがある。そういう学習でもeラーニングを活用したいが、その場合には、どうしたらよいのかという問題がある。
 これについては、学習相談などで一人一人の学習メニューを考え、その中で目的が合致するeラーニングを選んでいけば、eラーニングもそれぞれの学習の中に位置付いていくのではないかと思われる。そのためには、学習相談の充実を図っていかなければならない。これは従来からも課題とされてきたことではあるが、やはりその整備を急がなければならないであろう。
 人間関係に関しては、テレビ会議などで交流を図り、広域的な人間関係を作っていくことも考えられる。
 従来の生涯学習支援では、目的を明確にすると集まる人が限られてしまうから、目的は少しあいまいにした方がよいといわれてきた。しかし、ネットワーク社会ではさまざまなネットワークが作られ、人々はいくつものネットワークに加わることもでてくるので、状況は一変し、むしろ目的を明確にした方がよい社会になるのではないかと考えられる。

 第2には、コンテンツについての課題がある。
 これからの生涯学習振興にあっては、学習コンテンツをどうするかというのは大きな課題である。
 学習コンテンツの場合といえども、コンテンツは情報であるから種類は多い方がよいが、現時点では、絶対量が不足している。しかし、コンテンツを作り、蓄積するにしても、学習者のニーズがどこにあるのかわからない、という問題がある。今後は行政が需要側と供給側を繋ぐようにしていかなければならないであろう。
 平成10年の生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」では、これからの社会教育行政ではネットワーク対応が重要になるとして、資源を発掘して、ネットワークで交換し、活性化を図らなければならないとしている。
 コンテンツの魅力が受講者に伝わるには、やはり講師の魅力、講義の内容の魅力だと思う。そういうものをつなぎあわせて、受講者のために提供される講座をできる限り揃えて、生涯学習を振興していきたい。
 また、現在はコンテンツ作りに関心が寄せられているが、ある程度蓄積された段階になった場合に、どのようなサービスが行政の役割となっていくかを今から考えておかなければならない。
 これからは、コンテンツづくりにも競争原理が働くと思われるが、ある一部のユーザーにとっては非常に魅力的なコンテンツでも、もっと大きなパイを考えると、あまり必要とはされないことがある。しかし、希少価値のあるものはやはり残さなければならない。それが経営的に無理なら、どこかが補助する形で残していかなければならない。そのオーガナイズを誰がどうするのかという問題もある。
 これからは、学習者があらゆる学習機会やコンテンツにアクセスできるような生涯学習ドットコムとでもいうべき仕組みを開発して、学習者にサービスする必要があろう。

 第3に、eラーニングにおけるヒューマン・ファクターについても触れておかなければならない。
 eラーニングが発達すればするほど、その中でのヒューマン・ファクターが重要は意味を持つようになるといわれている。
 たとえば、ある生涯学習コースを考えた場合、そのコースの質は、狭い意味でのコンテンツだけで決まるのでなく、メンターやそこに介在する人材というヒューマン・ファクターの影響は意外に大きい。
 オンラインによるeラーニング・コースの場合、教室での授業のような講師の顔は見えないが、講師のキャラクターや魅力が授業の魅力にかなり影響する。そのような講師の魅力、講義の内容の魅力をつなぎあわせて、受講者のために提供される講座をできる限り揃えていくことが、これからの生涯学習振興の課題となるであろう。
 また、講座を作るにしても、インストラクショナル・デザイナーはこれからのeラーニングに欠かすことができないであろうが、その養成はまだ本格的に行われていない。それをどうするのかというのは、急ぎ取り組まなければならない課題である。

 第4に、ライセンスについても課題がある。
 eラーニングでは、職業に関わる学習など目的のはっきりした学習が多くなるから、ライセンスに結びつくような制度ができてくるとよいのではないか、という声が強い。生涯学習のすべてをライセンスに結びつけるというのではなく、ライセンスに結びつかないような学習は学習するだけでよいであろう。
 中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月)では、科目等履修生等での履修証明で、学位以外のいろいろな認定や認証が進むと予想している。eラーニングにあっては、これからそういうものが多く出てくるのではないかと考えられるので、それらをも含めた学習成果の認定・認証の仕組みを整備していかないと、さまざまな混乱が生じるであろう。

 次に、これからの生涯学習におけるeラーニングの展望的なことについても、若干述べておきたい。
 おそらく、今後、eラーニングは生涯学習全般に急速に浸透して行くであろうと予想される。その場合には、ある程度、競争原理が働くようになるのではないかと考えられる。
 生涯学習振興にあっては、この競争にどのように対処したらよいのであろうか。これまでは、殆どこの問題に迫られることがなかったので、対応策はまだないように思われる。
 この領域では大競争は起こらないであろうが、民間ベースのeラーニングではある程度の競争が予想されるし、あったほうがよいであろう。その点では、現在の生涯学習センターをはじめとする市町村や県の生涯学習振興関係組織は、競争にさらされていない。
 eラーニングにあっては、制作面などで民間、行政の全面にわたって競争が行われつつ、しかも民間と行政が連携するような体制ができてくるとよいのではないかと思われる。現在では、たとえばインターネット市民塾のような方式に気がつかず、時間と経費をかけて従来型の作りこみの教材を配信している生涯学習センターもある。これでは、急速な社会の変化に対応しようとしている学習者のニーズに応えることは難しいであろう。
 今は生涯学習振興も変革期にあり、そのようなことも急ぎ検討していかなければならないように思われる。

 最後に、そのほかにも、本調査研究で検討された課題や展望的な予想にはさまざまなものがあったことを付記しておく。