.委員による提言

4.生涯学習の広がりとメディア活用の方法に関する検討
中山 実

はじめに
   本稿では、さまざまな生涯学習の実践事例を収集し参考にさせていただいたことから、現在の生涯学習の形態について総合的な検討を試み、それらの実践でのメディアの活用方法や学習成果の取り扱いについて考察を加えた。さらに、これらの考察から今後の生涯学習の展開について私見を述べさせていただく。
   
1. 社会における生涯学習の広がり
   生涯学習が社会と密接に関係することは言うまでもないが、具体的な学習活動との関連については明確ではない。本調査研究で取り扱ってきた「生涯学習」の内容には、学校教育としての初等中等教育、大学等における高等教育、企業内教育、地域の公民館などで行われる社会教育などが含まれる。また、学習は個人それぞれの活動であるので、個人に基づく学習が、それぞれの学習活動の基礎である。

図1 生涯学習の広がり
 これらの学習活動を整理して検討するために、以下のような2つの軸を用いる。学習内容として、すぐに役立つものを求めるか、学習の時期を選ばない陳腐化しにくい内容を選ぶことが考えられる。さらに学習内容が学術的あるいは専門的に高度な内容の場合もあれば、むしろ学習者自身の興味や関心に基づいた内容の場合もある。これらは必ずしも対極をなすものではないが、比重としてはどちらかが優先されることが多いと考えられる。
このような2つの軸による平面を図1に示す。

 横軸を「すぐ役立つ」と「陳腐化速度緩」とし、縦軸に「学術的専門的」と「興味・関心」とすると、それぞれの教育内容は、図1のように配置することができる。初中等教育は全体的には中立的かつ網羅的であるので、図の中心部に位置する。大学での専門教育は、学術的専門的な内容であると同時に、全体的にすぐ役立つ内容があまり扱われていないとする意見もある。このようなことから近年、高度な専門的知識を学習するための専門職大学院が設置されるに至っている。このことから両者は相対的に横軸方向に広がる内容であるとすることができる。さらに、資格(ライセンス)取得を目指す学習や企業内での教育訓練は、すぐに役立つことを目指す専門的内容を学習するものであることから、「すぐ役立つ」方向の内容である。しかも、実用的な技能を取り扱うものも多いことから、かならずしも「学術的専門的」に高い内容ばかりでもない。一方、実用講座によって「すぐ役立つ」内容を学習する活動もあるが、本調査研究での事例からコミュニティ活動が中心的なものもある。さらに、学習者自身の教養や趣味のための学習も存在している。

 これらの活動内容を考慮して配置すると、図1に示すような構造になる。それぞれの学習活動は、具体的な学習機関が関係するので、それを外側に表示している。それぞれの学習機関の位置づけや、学習活動との接点も明確になる。多少の不整合はあるかもしれないが、このように配置することによって、それぞれの学習や教育機関が個別の活動ではなく、学習内容の特性を反映して分類されている。このように考えれば、生涯学習の広がりを把握して、全体的な視点で検討することが可能である。
   
2. 生涯学習におけるメディアの活用
   前節で挙げた生涯学習にはさまざまなメディアが、学習や学習支援、コミュニティ形成に使われている。主たる学習活動がそれぞれ少しずつ異なるため、同じメディアがどの学習形態にも同じように利用されるとは限らない。そこで、図1に示したそれぞれの学習でよく用いられる学習形態を検討して図2にまとめた。大学等における学習形態は、さまざまな方法が利用されているが、対面学習が基本になっていることに変わりはない。企業内教育や資格取得のための学習は、非同時性学習が多用されている。この代表的な学習形態はインターネット利用学習であるeラーニングやコミュニケーション(CMC:computer mediated communication)である。なお、これらは同時性学習でも利用可能である。また、家庭での学習は個別やグループによる学習形態である。教育メディアのそれぞれは、さまざまな学習でも利用可能であり、このような学習形態に応じた利用方法がある。例えばeラーニングは、大学などの教育では対面学習を支援する目的で利用されたり、家庭での学習には教材や情報を提供する目的で利用される。資格を取得するための学習でも、上述のように同時性学習と非同時性学習が可能である。

  図2 生涯学習におけるメディア利用とニーズ
図3 生涯学習の成果の取扱い

 さらに、良く指摘されるニーズを図2に重ねると、太矢印のように資格を得るための学習が多いように思われる。これはあくまでも明示的な意味でのニーズであり、潜在的なニーズを示していないことに注意していただきたい。すなわち、ある程度の採算を考慮したビジネスモデルが成り立ちやすいものに、ニーズが多いと考えることもできる。このような表面的なニーズと主な学習形態を重ね合わせると、資格取得や専門教育・専門職教育、実用講座などのニーズが多い学習では、eラーニングやCMCによる同時性あるいは非同時性学習が利用されやすいと考えることができる。
   
3. 生涯学習における学習成果の取り扱い
   学習による成果はもちろん個人が享受するものであるが、「学歴」と言われるように、実社会においては個人の学習経験がさまざまな場面で評価の対象になる。特に、大学卒業認定である学位や、各授業の履修修了を意味する単位認定が、高等教育としての修了認定である。また、資格の取得が就職の条件とされたり、職位の昇進に必要とされることもある。学位から資格までのように、学習者の学習経験がある水準に達成していることを客観的に示すことが求められる学習活動があり、これは図3の「学術的専門的」な内容で強く求められていると言える。ただし、横断的に扱われることはなく、学習内容によって、学位や資格のように区別されている。特に大学院教育で、修士の学位と専門職学位が区別されることがその典型的な例である。既に述べたように「学術的専門的」学習がさまざまな学習の横断的なものとして発展することを期待するのであれば、細分化された認定を横断的に取り扱う制度や方法を考えることも必要である。

 一方、「興味・関心」に基づく学習では、客観的な評価よりも、組織やコミュニティの中で相互に学習経験を認めあったり、個人で学習経験に価値を見いだすことを目指している。ただし、このような活動を、個人や限られたコミュニティの中だけの価値に留めてよいかについては、地域社会の活性化や人材活用の観点からも検討されるべきと考える。

 なお既に述べたように、「学術的専門的」と「興味・関心」の方向性は大きく異なると考えられ、この方向性までも統合して検討することは、かえってそれぞれの学習価値に影響を与えると思われる。それぞれの学習者の学習に対する価値づけを、尊重し求められる学習の在り方を維持すべである。
   
まとめ
   本稿では、多様化する生涯学習について、いくつかの指標を参照して検討した。そして、学習の内容、目標、必要性、価値、評価などがそれぞれ異なることを示した。今後の生涯学習の発展を考える上で、必要と思われる私見を述べさせていただく。
 まず、多様化、細分化した学習活動を、柔軟に相互活用することが促進されるべきではないかと考える。例えば、英語の資格によって大学で単位認定を行う形態である。企業人の大学等での学習ニーズがあると言われるが、実態とは乖離しているとする意見がある。これは、それぞれが求める認定に違いがあるためではないかと考えられる。相互利用や相互認証ができるようになれば、学習活動がより改善されると期待される。

 また、どこでどのような学習活動が可能かを助言したり、目標を達成するための支援を行う、学習支援コーディネータや学習コンサルタントのような役割も、さらなる活性化には不可欠である。さらには、学習活動の活性化を支援する教育デザイナーやメディアクリエータのような役割も重要である。これらのために、人材を固定的に配置するのではなく、さまざまな教育機関の指導者や学習コミュニティで活躍する有能な人材が、それぞれの立場から支援することによって、生涯学習全体が継続的に発展するような仕組み作りも求められる。ただし、社会全体が学習活動にどのような価値を与え、どのように評価するかによって生涯学習の枠組みや必要性も変わる。この点を考慮することがまず必要である。

 最後になったが、生涯学習についてそれぞれの立場から実践事例を快くご提供下さった方々、ならびに生涯学習について学習させていただく機会を与えていただいたことにお礼を申し上げる。