.生涯学習におけるeラーニングの活用事例


実践事例7.自治体と大学の連携による地域のeラーニング


1. せたがやeカレッジ、1年の軌跡
   せたがやeカレッジ(http://setagaya-ecalleg.com/)は2004年6月1日に開学し、早いもので9ヵ月が過ぎようとしている。世田谷区教育委員会と区内の駒沢大学、国士舘大学、昭和女子大学、東京農業大学の5者の協働によるeラーニングである。全国的にも自治体と地域にある複数大学間の連携によるeラーニングとして先駆的なものと評価され、新聞などのメディアで紹介された。その効果もあって、開学当初600人であった利用登録者は2005年2月末で1,800人を越えて3倍に増加した(図)。eラーニングは、人口や学習機会が多い都市では苦戦するとの心配を払拭することができ、関係者が胸を撫で下ろした。

 せたがやeカレッジの設立については、2003年度に世田谷区教育委員会より区内大学に提案されて検討が進められてきた。教育委員会からの提案に駒沢大学、国士舘大学、昭和女子大学ならびに東京農業大学が賛同し、2005年度からの正式運用の運びとなった。2004年度は本格運用のための試験期間としての位置づけで、運用ノウハウの蓄積に努めてきた。

  図 せたがやeカレッジ利用登録者数の推移
   
2. 運営委員会
   このような1年目の大きな成果は、区をはじめメンバーの4大学の全面的な協力によるものである。しかし、実は、eラーニングの魅力と将来性、その導入の必要性を強く認識していた、この5者もeラーニングの運営には全くの素人であった。株式会社インテックへの業務委託により、区および参加大学の経費負担軽減と運営の効率化が計られ、また富山インターネット市民塾・柵富雄事務局長からの運営やコンテツ開発、利用者へのサービスなどに対し適切なアドバスを得ることができたことが、せたがやeカレッジのスムーズな運営の基盤となっている。事務局は東京農業大学に置かれ、各機関より2名ずつ運営委員が参画し、表1のような委員会メンバーで運営されている。

  表1 2004年度せたがやeカレッジ運営委員会
代表 高野 克己 東京農業大学教授・エクステンションセンター長
副代表 高野 敏春 国士舘大学教授・生涯学習センター副センター長
副代表 徳本 克彦 駒澤大学総合情報センター係長
監事 瀬沼 政徳 昭和女子大学教育センター係長
事務局長 霜村  亮 世田谷区教育委員会事務局生涯学習・スポーツ課長
運営委員 島崎  博 国士舘大学生涯学習センター事務長
運営委員 佐野健太郎 駒澤大学総合情報センター
運営委員 長堀 浩二 昭和女子大学オープンカレッジ事務部次長
運営委員 澤山  茂 東京農業大学教授
運営委員 高木 照臣 世田谷区教育委員会事務局生涯学習・スポーツ係長
   
3. 思惑外れ
   2004年度に開講した講座を表2に示した。17講座が開講され、各大学がそれぞれ特徴のある講座を提供している。各大学では市民を対象とした多くの講座が開講されているので、これらのコンテンツがすぐにでも、せがたやeカレッジに転用できると考えて、もっと多くの講座が提供できると考えていた。

 利用登録者数は順調な伸びを示したのだが、講座数の点については多少思惑外れであった。これは、各大学行っている講座は多くが90分程度であるのに対し、eラーニンングの場合には、1回のコンテツ提供は受講する側からすると15〜20分が限界であった。

 また、ブロードバンド環境が整備拡大されているとは言え、受講生が使っているすべてのパソコンが高い処理能力を持っているとは限らない。大容量の動画の提供には限界があり、このため、eラーニング用に撮影、編集をし直さなければならない点が誤算であった。

 このようなとき、株式会社インテックの技術力と柵氏の助言は大いに助かり、せたがやeカレッジを勇気づけてくれた。助言に従いサポーターの募集を利用登録者に呼びかけたところ、早速十数名の方々が手を挙げてくれた。現在、サポーターの研修会を数回開催し、レベルアップを図っている。2005年度では、サポーターの募集とその協力が前進への弾みとなりそうである。


写真1 癒しの園芸のクーリング風景
●世田谷区教育委員会
「家庭からはじめるネット安全学級」親から知ろう、ネットとの安全なつきあいかた

●東京農業大学
食べ物と健康
食品廃棄物のリサイクル
味噌を家庭で造ってみよう
癒しの園芸(写真1)
焼酎は、こうして造られる
農大・オホーツクキャンパスの自然と生き物ー自然体験学習のフィールドからー

●昭和女子大学
日本の名城の魅力−姫路城−
英語の語源学          

●駒澤大学
簡化太極拳
ブランドのマネジメント
管理会計論から学ぶ        

●国士舘大学
「Save the life」
サンゴの海は今 −サンゴ礁の自然と環境の悪化−
お風呂を使った新健康法    

●市民講師
たまった写真を整理して人生節目節目のアルバムを作ってみませんか(写真2)
軽度発達障害について

写真2 アルバムづくりのスクーリング風景


   
4. 市民参加への試み
   eラーニングの特徴のひとつに、受講生が講座を開く立場になれることがある。せたがやeカレッジでも、運営が軌道に乗ったのを機に市民からの講座開設申し込みを呼びかけた。表2のように2つの市民講師による講座が誕生した。

 市民の参加を促進するための、講座づくりの講習会を数回にわたり行い、すでに十数名の方が講習を受けられ、市民講師への準備を進めている。また、先に紹介したサポーターの方々には、講座やスクーリングの取材をお願いし、その記事をかわら版として配信している。まさに、「市民による」「市民のための」「市民のeラーニング」が、進行している。
   
5. 2005へ向けて
   せたがやeカレッジでは、2004年度の成果を踏まえ、利用登録者数を2005年度には4,000人、2006年度7,000人、2007年度10,000人になると予想している。このためには市民ニーズ、時代を捉えた多種多様な講座の開発が必要である。

 各大学がもつコンテンツのeラーニング化は、サポーターの協力を得て加速され、各大学の魅力ある講座が多数配信できるものと思う。また、区内の他の大学にもせたがやeカレッジへの参加を呼びかけ、大学間の幅広い連携によって多様なコンテンツの提供を目指す。さらに、市民は元より企業や団体が、講座を開設し易い環境の整備を積極的に行い、開かれた敷居の低い、地域や市民の目線に立ったeラーニングづくりを推し進める。多くの方々に、せたがやeカレッジを体験していただけることを願っている。

(せたがやeカレッジ運営委員会代表 東京農業大学教授・エクステンションセンター長 高野 克己)