. 委員による提言

3.グループ間討議のためのテレビ会議システムの運用方法
近藤 智嗣

 本調査研究では、インターネットによるテレビ会議システムを用いて、最大5地点で、同時双方向のグループ間討議を実施された。この討議では、映像を提示したり、ワープロ画面を共有したりして、コミュニケーションが行われ、各地域の情報を発信し共有することにおいて十分な成果が得られた。

 しかし、グループ間討議という観点においては、システム構成とその運用方法に検討課題が残った。本稿では、これまでの実践事例もふまえて、実現可能な範囲として運用面での改善方法を検討する。

1.パソコンによるインターネットテレビ会議システム

   インターネットのブロードバンド化に伴い、Webカメラ等による簡易なインターネットテレビ会議システムが普及しつつある。専用端末を使用するタイプとは異なり、非常に容易かつ安価に実現できるのが要因であると思われる。

 本実践で利用したインターネットテレビ会議システムもこのタイプの1つであり、その他、ビデオ・音声機能等多数のシステムが使われている。
2.インターネットテレビ会議の可能性

 
写真1 
幕張とシンガポールとの交流
 インターネットテレビ会議の教育応用としての実践事例も増えつつある。ここでは最近筆者が関わった事例を2つ紹介する。

写真1は、渋谷教育学園幕張中学高等学校(千葉県)と早稲田大学系属・早稲田渋谷シンガポール校(シンガポール)の生徒会の交流実践(2004.2.16)で、写真は幕張中学高等学校側である。

写真右にあるノートパソコンがシンガポールと接続されたパソコンで、発言する生徒はこのパソコンの前に交代で座る。他の生徒はプロジェクターで投影された大画面を見ている。この日は、食文化の違いをテーマとし、時期的に牛丼やバレンタインデーについて活発な意見が出された。

 また、テキストによるチャットも別のパソコンで用意され、発話者以外の生徒はそちらでも交流することができた。システムは、大手プロバイダーの映像・ボイス機能を使用し、画像は320×240ピクセル、画像の更新は2秒に1回くらいであった。

写真2は、明治大学付属中野八王子中学校・高等学校(東京都)とカリタス女子中学高等学校(神奈川県)が浅川とその下流である多摩川において同時に野外調査を行い、このデータや意見をテレビ会議やチャットを通して交換するという実践(2003.7.23)である。

 写真の場所は、浅川側(明治大学付属中野八王子中学校・高等学校)で、右のディスプレイに写っているのは、多摩川で水生昆虫の採取をしている映像(カリタス女子中学高等学校)である。システムは専用のコーデック(映像を圧縮・伸張する装置)を用い、画像は、640×480ピクセル、画像の更新は1秒に1回くらいであった。2002年度はPHS経由で大手プロバイダーを使ったテレビ会議も試している。
写真2
浅川(上流)・多摩川(下流)
間の同時野外調査


 このように、海外、野外等、インターネットによるテレビ会議の可能性は広い。
3.グループ間討議での問題点
 
 本調査研究の実践(写真3)と上記の事例は、いずれもグループ間討議のインターネットテレビ会議である。インターネットテレビ会議システムの最大のメリットは簡便性であり、多くはUSB接続の小型Webカメラを1台使用して会議を行う。そのため、発言者が複数いる場合は席を替わったり、Webカメラとマイクのコードをのばしたりしなければならない。

 本来、Webカメラはデスクトップ等に備え付け、1対1のテレビ電話として使用するものであり、今回のように多対多の会議で使用するようには設計されていないため、問題が生じても仕方のないことかもしれない。

写真3
今回の調査研究におけるインターネットテレビ会議
 以下に、この実践から気づいた問題点を挙げる。
・画像の更新が約12秒に1回で、動きが表現されていなかった。

・発話者以外の映像を特に必要とは感じなかった。発話者が、視聴者の反応を見ながら話し方、内容を変えることは重要であるが、今回の場合は、画質の点から反応を読みとることは難しかったためである。発話者以外は受信のみにして、速度を向上させることができるのならその方が効果的である。その際、参加者の写真を日本地図上に配置しておけば、位置関係も把握でき、これで十分かもしれない。

・回線の状態が悪くなると、自動的に画面サイズが縮小されたが、ユーザーは回線状態をモニターするのが目的でないので、画面サイズは同じままで、解像度を粗くするか更新頻度を下げるかのどちらかにすべきである。

・ワープロによる資料共有機能が発話者の映像を隠してしまったことがあったが、発話者の映像は別枠に常に表示されていた方が良い。

・音声にエコーが返って来たことも数回あったが、各会場のスピーカーは数を多くして、参加者の近くに配置し、それぞれの音量を下げれば、少しは低減できる。

・画面内に適切な情報が提示されていない場合があり、どこを見て良いのかがわからない場合があった。提示される情報を整理し、注目してほしい箇所を指示棒やマウスカーソルで示せる工夫も必要である。

4.運用面での改善案
 
これまで述べてきた問題点をふまえて、上記以外の改善点を提案する。高価なシステムを導入すれば、改善できることもあるが、ここでは、グループ間討議で人員は豊富という利点を生かし参加メンバーに映像スタッフの役割分担をすることで人的に改善するのはどうだろうか。

 また、これまでの視聴覚教育研究の成果を取り入れ、映像技法で改善することも考えられる。写真4は改善に参考となる事例として紹介する。これは、1996年に実施したISDN回線による日豪間の遠隔学習であり、右の女性はビデオカメラの操作卓の前にいる。教室にビデオカメラは2台セットされ、1台は固定で教室全体を映している。もう1台は、この操作卓からリモートコントロールで向きやズームを操作できる。つまり、この女性は、進行に合わせて、カメラマンとスイッチャーの役割を担っているのである。

 当時のテレビ会議は、テレビ中継が比較的容易にできるようになったという感覚で、映像を重視していたが、現在のインターネットテレビ会議は、文字のチャットに映像と音声が付加されたという感覚で、映像は軽視されているように思える。 

 そこで、カメラ・音声部を従来のビデオカメラとマイクに取り替えてしまうことを提案する。IEEE1394(DV端子)で接続可能なシステムもある。ビデオカメラは少なくとも2台用意し、テレビ会議に参加するメンバー全員が映る引きの映像と、もう1台は発言者をクローズアップするカメラである。

 さらにもう1台ある場合は、発言者の手元の資料等を映す書画カメラ的に使用する。そして、カメラの配置は、イマジナリーラインを越えないようにしたり、会議の最初は建物の映像をエスタブリッシングショットとして流したり、会場名のテロップを入れれば、状況もつかみやすくなる。機器は一般的な家庭用のもので十分であり、逆に、オーバーラップやズームなどの効果は、1秒間に1フレームくらいの映像では効果がないので、使わないように注意する等、インターネットテレビ会議システムの特性を考慮すれば、今回の問題点は少しは改善されると思われる。
写真4
操作卓を使用したISDNによる日豪遠隔学習