「視聴覚教育研修とカリキュラム」について

1.視聴覚教育施策の四本のレール
 国は、視聴覚教育を振興するためには体系的な条件整備を図る必要があるとし、1970年代に入ると、四つの整備事項を掲げた。第一は、学校教育、社会教育の学習活動にとって必要な視聴覚教材が計画的に制作されること、第二に、制作された教材を指導者・学習者が容易に利用できるように、教材を供給する拠点(視聴覚ライブラリー)が整備されること、第三に、視聴覚教材を利用する学校や社会教育施設に、各種の視聴覚機材が備えられること、第四に、以上のような物的な条件整備に加えて、すべての教育関係者が視聴覚機材・教材を活用し得る能力を持つために、その人的な条件整備を行う視聴覚教育の研修を普及・充実すること、という四本のレールを敷いた。研修カリキュラムは、この第四の整備事項の一環として作成されたものである。

2.視聴覚教育研修カリキュラムの標準
 学校教育、社会教育において、視聴覚的手段の活用をさらに促進するための具体的な方策の検討を行った社会教育審議会教育放送分科会は、7か月の審議を経て、昭和47年6月21日、「視聴覚教育研修カリキュラム標準案について」(報告)をとりまとめた。同報告は、「視聴覚教育の研修はその実施の過程からみて、視聴覚的手段の一般的な操作や利用方法の修得と、これらの技術・知識を教科・領域の指導や学習指導に適用して教育効果を上げる方法の修得とに二大別することができる」としたうえで、「前者は一般的・技術的な要素が多く、段階的な修得が可能であることから、これを中心にした研修カリキュラム」を作成したとしている。
 この「報告」は、その後、昭和48年3月12日、社会教育審議会の「視聴覚教育研修カリキュラム標準案について」として文部大臣に建議され、それを受けて、文部省社会教育局が「視聴覚教育研修カリキュラムの標準」を作成し、これを当面の視聴覚教育研修の指導方針とするよう、昭和48年4月19日、社会教育局長が都道府県・指定都市教育委員会教育長宛に通知した。
 「標準」は、その総則で、初級・中級・上級の3段階に分けて、研修のねらい、研修時間数、研修すべき事項のめやすを示したこと、初級は、教員、社会教育施設の職員、民間有志指導者等が視聴覚機材・教材を扱うのに最小限必要な技術と知識の段階を、中級は、学校の視聴覚教育主任、指導主事、社会教育主事、公民館主事、視聴覚ライブラリーの職員、視聴覚教育研究団体の指導者等で初級者の指導にあたるものに要求される技術と知識の段階を、上級は、指導主事、社会教育主事、視聴覚ライブラリーの職員、視聴覚教育研究団体の指導者で中級者の指導に要求される技術と知識の段階を想定していることなどを述べたあと、機材・教材別、初・中・上級別に研修のねらい、研修時間、研修事項を掲げている。

3.視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準
 前掲「標準」は、研修計画をたてる際には、必要に応じて新たな研修事項を加えるなどの配慮が大切だと述べているが、その後メデイア環境が急速に変化する中で、新しい事項を追加する程度の対応では適切な研修を実施することが困難となり、カリキュラムの改正を迫られることになった。そのため、社会教育審議会教育メディア分科会は、ほぼ2年の審議を経て、平成2年6月26日、「視聴覚教育メディア研修カリキュラム標準案について」(報告)をとりまとめ、これを受けて、文部省生涯学習局が「視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準」を作成し、平成4年3月9日、これを同局長が都道府県・指定都市教育委員会教育長宛に通知した。これによってカリキュラムは、その構成、内容が抜本的に改正されたのである。
 改正された主な内容は、研修の名称をコンピュータ等の新しい機器の動向を含む幅広い研修とするため「視聴覚教育メディア研修」としたこと、初・中・上級の段階分けを「教育の場で直接応用する立場の者を対象としたコース(研修カリキュラムT)」と「地域の視聴覚教育を推進し、指導する者を対象とした(研修カリキュラムII)」に改めたこと、市町村は主としてカリキュラムT、都道府県・指定都市は主としてカリキュラムIIの基礎コース、国は同専門コースを行うとしたこと、研修事項にコンピュータ、通信システム、データベースなどの新たなメディアを含めたこと、各コースに「総論」の講義を設け、メディアの最新動向やメディア活用の意義などについて研修できるようにしたことなどである。
 この新「標準」は、現在でも研修を企画・実施するうえで参考となってはいるが、作成されてから10年を経過したいま、急激に変化し、また今後も変化し続けるであろうメディア環境に適切に対応し得る、新しい研修カリキュラムが求められるようになっている。本研究会が設けられた所以もここにある。

[高村 久夫]