実際に、エルネット・オープンカレッジを利用した講座を実施するとなると、少なくともこれまで実施してきた対面講座の「代用品」にする訳にはいかない。弱点を克服した上で、対面講座にはない新たな魅力を見出せなければ、エルネット・オープンカレッジを導入する意味がない。
(1)双方向性の確保について
エルネット・オープンカレッジの特徴は、衛星通信を利用するところにあるわけだが、その最大の特徴が弱点も抱えている。対面講座と比較した場合、@臨場感に欠けるA参加感に欠けるB質問ができないC講師との一体感がもてない等の問題がある。しかし、これらの多くは、工夫次第で解決できる可能性が高い。いずれも、双方向性が確保されないことが主たる要因と考えられるため、いかに双方向性を確保するかが重要な課題であるとともに、どの程度までが許容範囲かを明確にする必要がある。
[実 験]
様々な形の「双方向」の効用と問題点を検証するため3種類のモデルを設定した。1コマ=90分の講座中に、テレビ会議システムを利用した4回の質問タイムを設けて質疑応答を行う。そのうちの2回が青森県に割り当てられた。
モデルT(メインサテライト会場、青森市)
・テレビ会議システムを利用して、直接、東京会場と質疑応答をする
・サブサテライト会場からFAXで送られた質問を取りまとめる。
モデルU(サブサテライト会場、十和田市、藤崎町)
・FAXをメインサテライト会場に送ることによって、間接的に質問ができる。
モデルV(単独受信会場、むつ市)
・質問のできる環境は用意されていない。
(2)対面講座との組み合わせによる相乗効果
いかに双方向性を確保したとしても、遠隔学習において問題を深く掘り下げることはかなり困難である。また、身近な地域の問題として考えることも難しい。そこで、対面講座を組み合わせて欠点を補うこととした。さらに、その内容や方法を工夫することによって、相乗効果による新しい魅力を引き出すことを試みた。
[実 験]
エルネット・オープンカレッジを3コマ視聴した後、4コマ目に対面講座を用意する。対面講座は、実践的な立場の方をコメンテータにした「ディスカッション」の形式とし、学習者の発言を多く引き出すようにする。
(青森会場の例)
テーマ「福祉社会を生きるU」
@市民主体性の形成とボランティア活動(淑徳短大・エルネット視聴)
Aボランティア活動の原理と原則(淑徳短大・エルネット視聴)
B介護保健制度と社会福祉の展望(淑徳短大・エルネット視聴)
+
C福祉社会の中の市民の役割(NPO事務局長・ディスカッション)
(3)新しい形の運営方法について
今回のモデル講座においては、運営面の実験も合わせて行った。それは、「選んで視聴」というエルネット・オープンカレッジでは、とかく受身になりがちであり、それが様々な面でマイナス要素になりかねないと考えたからである。
[実 験]
これまでの「あおもり学講座」では、県民カレッジ事務局と各教育事務所が運営を行っていたが、今回はこれに、市町村教育委員会と学習者グループを加え、それぞれの役割分担を明確にした運営を試みた。また、各地区ごとに四者による打合せ会議を持って連絡調整を行った。
3 事業の成果
(1)双方向性の確保について
モデルTが効果的であることは既に実証済みである。今回はサブサテライト会場の質問を取りまとめるという役割も担った訳だが、進行等に問題は無く、質問内容に幅がでるなどのメリットもあった。モデルUでは、間接的な形ではあるものの「質問が出来る」ということで、講師や他会場との一体感を持つことができ、参加意識を強くもつことができた。また、モデルVにおいても、他会場が代弁者となることによって同様の一体感を持つことができた。これらより、サブサテライト会場はもとより、方法によっては単独受信会場においてもかなり大きな満足感を得られることが確認できた。
(2)対面講座との組み合わせによる相乗効果
視聴後の対面講座は、予想をはるかに越える大きな効果をもたらした。当初、講義者に直接質問ができないことを補うものと考えられていたが、実際には全く新しい学びの空間を作り出すこととなった。地域内で活躍する実践的な方をコメンテータにしたこと、学習者の発言の機会を多くしたディスカッション方式にしたことが良かった。これによって、学習を更に深め、身近な地域の問題として意識することができた。
(3)新しい形の運営方法について
初めての試みの割には、トラブルも無くスムーズな運営ができた。また、この取り組みを通じて四者の共通理解が図られ、来年度以降の運営の形が見えてきた。現時点で想定される役割分担は次のとおりである。
@県民カレッジ事務局は、全体計画と地区間の連絡調整を行うとともに、大学や国などへに対する窓口となる。A教育事務所は、各地区における中心機関として、打合せ会議を招集して連絡調整を図る。また、チラシの作成や4コマ目のコーディネートなどの面で関わる。B市町村教育委員会は、地域住民への窓口として、受講受付や広報誌等でのPRを行い、当日は講座の運営と進行を担う。C学習者グループは、学習テーマの設定に大きく関わるとともに、当日の運営補助なども行う。
いずれにしても、「みんなで作る」という姿勢が重要であり、それが運営をスムーズにするだけではなく、講座の魅力やレベルアップにもつながる。
4 今後の課題
エルネット・オープンカレッジは様々な問題を抱えており、現在のままでは実用化するのに十分な状態とは言いがたい。しかし、大きな可能性を秘めていることも確かであり、取り組みによっては短所を補うだけでなく、エルネットならではの効果をあげることも可能である。そのためには、エルネット・オープンカレッジの発信者、受信者、運営者が、更に工夫と努力をすることが必要である。
(1)発信者(大学)が取り組むべきこと
エルネット・オープンカレッジの成否の第一の鍵は大学の姿勢にある。いかにして質の良い講座を作るかが最大のポイントであろう。そのために必要なことは、次の@〜Dのようなことであるが、これらをクリアできなければ、対面講座を超えることは出来ない。
@テーマの精選
どういう形態の講座であっても、タイムリーで興味深いテーマを設定することが重要である。エルネット・オープンカレッジとて例外ではない。
A講義技術の向上
わかりやすい講義であることも重要な要素である。レベルを下げることではない。学習者が大学に求めるものは学術的に高度な内容である。それをわかりやすく解説する技術が求められる。カメラに向かって原稿を棒読みするなどは論外である。
B映像をうまく使った講座づくり
エルネット・オープンカレッジにおいては、対面講座以上に視覚に訴えることを考えるべきである。写真や動画、図、CGなどを効果的に組み込むことによって、対面講座とは別の魅力を作り出すことが可能となる。講義者の顔はたまに出てくる程度でいい。
C双方向性の確保
今回の実験によって、双方向性の確保がいかに重要であるかが確認された。そのことを十分に認識して講座を作ることである。必ずしも、リアルタイムの質疑応答<でなければ駄目だということではない。また、通信を利用した質疑応答でなくてもかまわない。仮に録画であっても、会場に受講生を入れ、質疑応答の様子を撮影するだけでもそれなりの効果はある。
D通信の特性を生かす
通信のメリットは遠隔地に情報を伝達することだけではない。特に双方向性については大きな武器として活用すべきである。用いるのは衛星でもテレビ会議でもインターネットでも可能である。
単なる質疑応答の手段としてではなく、もっと積極的な活用を考えたい。たとえば、あるテーマについて全国各地の意見や考え方の違いなどを取り上げ、それを軸に講座を組み立てることもいいだろう。
(2)受信者(地域)が取り組むべきこと
放送を流しっぱなしにするのでは魅力に欠ける。そこで、視聴で完結するのはなく、エルネット・オープンカレッジを組み込んだ講座として総合的に考えるべきである。青森県における取り組みの想定は前述のとおりだが、重要なことは学習者の位置付けである。学習者の要望や意見を最大限に尊重することが、魅力的な講座をつくる基本である。したがって、地域において真っ先に取り組むべきことは、学習者が中心となる運営の仕組みを構築することであろう。
(3)運営者(国)が取り組むべきこと
エルネット・オープンカレッジの運営者が第一に取り組むべきことは、テーマや内容、放送日時等の情報を迅速に流すことである。単なる視聴ならともかく、地域において「エルネット・オープンカレッジを組み込んだ講座」として再構築するには、現状の2ヶ月前ということでは話にならない。最低でも3ヶ月以上前である必要があるし、本来であれば年度当初にすべての日程を公表すべきである。
また、発信者と受信者の間をつなぐことも重要だ。受信者が取りまとめた学習者の声を、発信者である大学に伝える仕組みを整えることが求められる。さらに、インターネットを利用した掲示板やフォーラムの運営など、学習活動をサポートするシステムの整備に力を入れる必要がある。
(青森県総合社会教育センター 指導主事 坂本 徹)