訪問調査施設名 鹿児島県立視聴覚センター(鹿児島県)

回答者 川村 秀嗣(鹿児島県立図書館視聴覚課 係長) 
  高峯 正一(鹿児島県立図書館視聴覚課 指導主事)
調査担当 村上 長彦(足立区生涯学習センター 事業推進課長)
  佐藤  正(財団法人日本視聴覚教育協会主務)


1.施設の概要

名称: 鹿児島県立視聴覚センター(鹿児島県立図書館視聴覚部門)
所在地: 〒892-0853 鹿児島市城山町7−1
電話: (099)224-9511   FAX:(099)226-3513
交通: バス又は路面電車で市役所前下車、徒歩約5分
E-Mail: kentosho@po.pref.kagoshima.jp
ホームページ: http://www.kentosho.pref.kagoshima.jp/
設置者: 鹿児島県
設置根拠: 設置条例・規則
組織: 図書館長/副館長(2名中1名が視聴覚担当)/視聴覚課長(副館長兼務)/視聴覚係長/指導主事(2名)
建物面積: 2173.61m2
施設内容: スタジオ/調整室/アナウンスブース/制作演習室/映写室/暗室/ビデオ編集室/ハイビジョンギャラリー/シネマギャラリー/視聴室/ラウンジ/大研修室/保管庫/倉庫/事務室/その他
教材保有数: 16ミリフィルム1,750本/ビデオテープ1,608本/パソコンソフト206組

2.沿革

 昭和54年11月1日に県立視聴覚センターとして開設。
 昭和55年1月17日より視聴覚教育相談事業・教材提供事業を開始し、同年4月より視聴覚教育研修講座等を開始している。
 昭和57年から郷土教育用ビデオ教材制作を開始するとともに、県内の視聴覚ライブラリー職員の研修講座を開始している。
 情報化の進展に対応した機器整備を進めるとともに、視聴覚教材制作にも力を入れており、平成2年には郷土に関する視聴覚教材展示目録作成と検索用ソフトを開発し、平成7年から6か年に渡って県内の映像をデータベース化する「かごしま映像百科」事業を実施。
 平成8年度に組織変更を行い、県立視聴覚センター事務局は県立図書館視聴覚課となった。
 平成15年には視聴覚ライブラリーが現在建設中の新しい複合施設内に移転する予定。

3.聞き取り調査の結果

(1)地域映像教材の制作状況
制作している地域映像教材
 平成7年度から6か年計画で、県内の自然や文化に関する映像を体系的に収集してデータベース化し保存する「かごしま映像百科」事業を実施した。この事業は、県内各市町村の代表的な地形(海岸、川、湖沼等)、植生、史跡、伝統芸能などの素材映像を収集・整備、保管しデータベース化するものである。
 制作にあたっては、映像として保存価値のあるもの、将来変わることが予想される事象について収集することを基本とし、県内各市町村の代表的な地形(海岸、川、湖沼等)、植生、史跡、神社、仏閣、伝統芸能などの素材映像を5か年計画で撮影・整備する方針が立てられた。この年次計画は後に6か年計画に変更され、平成12年度に終了している。
制作年度とデータベース素材内容
平成7年度 市町村の特色ある地形(海岸、山地、港、洞窟等)
平成8年度 市町村の特色ある地形(川や湖沼、滝、湧水等)
平成9年度 市町村の特色ある植生等
平成10年度 神社、仏閣、史跡、句碑、歌碑等
平成11〜12年度 伝統工芸、祭り等
 撮影された素材はテーマ別に76本のテープにまとめるとともに、映像を市町村別にまとめた素材テープも作成している。
 さらに、映像や静止画をデジタルコンテンツ化した「映像百科素材データベース」のCD−ROMも制作しており、現在のところ、「港・海岸編」と「郷土芸能・祭り編」の2枚がある。

制作方法
 制作にあたって、企画・撮影・編集は県視聴覚センター(視聴覚課)職員が行っており、事業開始時は課長、係長、指導主事2名の4名がチームを編成していたが、平成8年度の組織変更により課長が副館長の兼務になったため、実質3名の体制で制作を行った。

(ア)取材対象の選定
 選定には、各市町村教育委員会に取材希望調査を行い、特色がある、映像保存が急がれる、映像に活用する価値がある、といった基準を基に取材時期を加味して決定された。

(イ)素材映像の撮影
 撮影は該当市町村と連携を図りながら視聴覚課職員が行った。制作にあたっての外部委託は行っていない。撮影のための職員研修も特に行っていないが、これはビデオ撮影や編集に一定のスキルを持った職員が配置されていることによって可能となっている。また、年間500万円程度の事業予算の大半が撮影のための旅費と編集・テープ作成段階の臨時職員の賃金にあてられている。
 ビデオ機材はS−VHSビデオが利用されてきたが、平成12年度にはDVに変更され、より鮮明な記録が可能になった。
 撮影にあたってはデータベースとして必要な部分を編集して利用できるように各素材を長めに撮影している。

(ウ)編集
 編集作業も視聴覚課職員が分担して自前の編集機器を利用して行っている。編集機器もビデオ機材の変更に伴い、当初のアナログ編集からデジタルノンリニア編集に変わってきている。
 素材の編集にあたっても、作品としてまとめることよりも素材データベースとして利用されることを前提とした長めのカットとすることが前提になっている。

(2)地域映像教材の提供・利用状況
提供方法
 「かごしま映像百科」の貸出用テープは、VHSテープによって作成されている。県視聴覚センターでは全データベースと全市町村別のテープを備え、市町村の視聴覚センター・ライブラリーには全データベースと自市町村分のテープを備えて、他の映像資料と同様の貸出しを行っている。
 利用の想定としては、作品として鑑賞することよりは、必要な部分を視聴したり、必要な部分を編集して利用したりすることを前提としている。
 そのため、学校教育や社会教育での編集利用やホームページでの活用は認めているが、大学や民間企業からの編集利用やホームページでの利用の申請は断っているという。

利用状況
 利用状況については、「かごしま映像百科」単独での利用状況調査は行っていないため件数は不明だが、「多くはない」とのことであった。

(3)地域映像教材の保管状況
追記型レーザーディスクの活用
 貸出用テープのほかにマスターテープを視聴覚センターで保存しているが、画像の劣化を防ぐために、追記型レーザーディスク装置を導入し、レーザーディスクに保存している。この追記型レーザーディスクの導入は「かごしま映像百科」事業に先立つ平成6年度に行っており、「かごしま映像百科」のマスターテープのレーザーディスク化の他に、それ以前の自作教材のUマチックのマスターテープのレーザーディスク化も順次進めているという。
 追記型レーザーディスクの導入は、導入時期には劣化防止が可能な唯一の選択肢だったことから決定されたそうだが、平成15年の新施設への移転後はDVDに変更することを検討しているとのことである。劣化防止と保存について積極的に取り組んでいる。

古い機材の稼動状況
 「かごしま映像百科」のマスターテープはS−VHSテープであり、再生のための機器は問題なく稼動している。それ以前のUマチックについても機器は稼動できる状況にある。

(4)地域映像教材のアーカイブ化について
アーカイブ化の必要性について
 地域映像教材のアーカイブ化については、「必要である」と認識しており、当センターでも既に取り組みを始めている。「映像百科素材データベース」のCD−ROM制作もその一環であり、施設内ではイントラネットで素材映像を利用できるようにしている。
 このような取り組みを始めていることから、全国的な動きが始まればすぐに参加することが可能であり、その際には市町村ごとにまとめたものより、データベースの方が向いていると考えている。

アーカイブ化の課題
 アーカイブ化を進めるにあたっては、まず配信する素材の著作権保護をどのようにするかが課題だとしている。個人で自由にダウンロードすることができない仕組みにし、必要があれば問い合わせるなどして利用できるようにすることが望ましいと考えている。
 また、アーカイブ化するにあたって、データをどのフォーマットで統一するのか、それに伴う作業を誰が行うのかということも課題としてあげている。参加する各センター・ライブラリーが独自に行うとなるとかなりの負担になるということが心配されている。

4.地域映像教材の視聴
 
 訪問調査において、実際に制作された地域映像教材を視聴した。視聴した作品は次の2点であった。

平成8年度制作の海岸データベースで、鹿児島市の寺山公園から錦江湾、桜島を撮影した作品
平成12年度制作の国指定民俗文化財データベースで、与論町の与論十五夜踊りを撮影した作品

 視聴した2つの作品は、事業の2年目と6年目というように制作時期が違っており、機材もS−VHSからDVへと変わっている。視聴した映像においてDVの映像の鮮明さが際立っており、今後の地域映像教材作成におけるDVの優位を強く印象付けられた。
 また、鹿児島のこの事業の目的である映像のデータベース作りのために、長めのカットをあまり編集せずに残してあるため、作品を視聴するという目的ではなく、文字通りデータベースとして必要な部分をピックアップして利用する素材であるということを感じた。
 他県での利用という視点で「かごしま映像百科」を見た場合に、自然でいえば桜島に代表される特色ある地形の映像や民俗芸能などは利用価値があると感じられた。今後、他県においても同様の取り組みがなされ、全国で共通に利用できる体制が整えば、日本全体の映像データベースとして利用価値が高まるのではないだろうか。
 担当者の話を聞いても、データベースの全国的な展開に対して積極的な意向が感じられることから、全国的な活用の可能性が高いと思われる。

5.聞き取り調査を終えて

 地域映像を一つの作品として編集加工するのではなく、映像のデータベースとして、蓄積していくという鹿児島県の目指す姿は、地域映像教材の存在意義にあったものだと感じた。今すぐの利用拡大にはつながらないかもしれないが、映像のデータベースを保存活用が可能な形で蓄積していくということが視聴覚センター・ライブラリーの重要な役割であろう。
 県が市町村、あるいはボランティアをもっと巻き込んで、共同制作できるような仕組みを作ることができれば、地域映像教材制作の拡大につながるだけでなく、市町村の視聴覚センター・ライブラリーの活性化と職員のスキルアップにつながることであろう。